投資のリスク=危険度ではない!正しく理解して資産運用を始めよう

「投資のリスク=損失を被る危険度」のように解釈している人がいますが、間違いです。筆者もわかりやすさ重視で利益をリターン、損失をリスクと思われる記載をすることがありますが、本当は、利益や損失を問わずリターンの振れ幅そのものがリスクになります。

資産運用を始める場合は、投資のリスクを正しく理解しましょう。

投資のリスクとは「リターンの振れ幅」

投資のリスクとは、リターンの振れ幅のことです。リターンの振れ幅は「標準偏差(平均値からのばらつきや散らばり具合)」で数値化されることもあります。

銘柄によって異なりますが、一般的に株式はリスクが高いといわれています。国や企業がお金を借りる際に発行する債券と比べると、株式がハイリスクであることがわかるでしょう。

【債券と株式のリスク・期待リターン】

債券と株式のリスク・期待リターン
※2020年4月1日より適用した基本ポートフォリオ策定時に用いたデータ
画像引用:GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)

株価が上がって儲かることもリスクの一つ

「リスク=損」と考えてしまう人が多いのですが、株価が上がって保有銘柄が儲かることもリスクの一つです。冒頭で説明したように投資におけるリスクとは、リターンの振れ幅のことを指します。

将来のリターンがどうなるのかは誰にもわからないため、投資におけるリスクは「不確実性」といわれることもあります。株に限らず、資産運用にはさまざまなリスクがあります。次章で詳しく説明するので、認識したうえで投資を始めましょう。

投資をする前に認識しておくべき6つのリスク

投資をする前に認識しておくべきリスクは、以下の6つです。

価格変動リスク

価格変動リスクとは、株や不動産などの価格が変動することにより、利益(含み益)または損失(含み損)が発生するリスクです。価格の変動要因は、為替や各企業の決算、ニュースなどが挙げられます。

特に株価の変動リスクは大きく、トヨタ自動車<7203>をはじめとした大企業の株でも年間40~50%程度動くことがあります

【トヨタ自動車<7203>の直近1年間の値動き】

トヨタ自動車の直近1年間の値動き
画像引用:SBI証券

株式投資などリスクの高い資産運用では、価格変動リスクが大きい傾向があるため、余裕資金の範囲内で投資するように心がけましょう。

為替変動リスク

米国株やFX、外貨預金など海外の資産、通貨に投資する場合は、為替変動リスクを考慮する必要があります。例えば1株100米ドルの米国株を1米ドル150円のときに購入して株価が120米ドルに上がっても、為替が1米ドル120円の円高になったら円換算ベースでは含み損です。

直近10年間の米ドル/円の値動きを見ると50円以上の値幅があるため、1米ドル150円から120円程度の円高になる可能性はあります。

【米ドル/円の直近10年間の値動き】

米ドル/円の直近10年間の値動き
画像引用:SBI証券

2011年10月31日には、1米ドル75円30銭台であったことを考えると、2025年1月現在の為替水準は極めて米ドルが高いです。ちなみに財務省は2010~2011年の円高水準で16兆円を超える円売りの為替介入、2024年には15兆円を超える円買いの為替介入をしています。

円買いの為替介入があったから必ず円高になるわけではありませんが、日本政府が今の為替相場を過度な円安と判断していることの現れでしょう。今から米国株や米国株に投資する投資信託を買う場合は、国が過度な円安と判断したタイミングであることを認識しておくべきです。

日本株でも円安による為替差益で儲かっている企業が複数あるため、今後の円高リスクは想定して銘柄を選んだほうがいいでしょう。

金利変動リスク

日銀がマイナス金利を解除し利上げに動いている2024年3月以降は、金利変動リスクも大きくなりつつあります。一般的に「金利が上がると債券の価格が下がり、金利が下がると債券の価格が上がる」といわれます。

日銀の金融政策によって株価も変動するため、株や株式に投資する投資信託を持っている人も金利の動向は注視する必要があるでしょう。

流動性リスク

流動性リスクとは、端的にいえば売りたいときに売れないリスクです。株式のなかでも取引量の少ない銘柄や、不動産を買う場合は流動性リスクが高くなります

取引量の少ない株は、値段を指定した注文(指値注文)を出すとなかなか成立しません。早く売るために値段を指定しない注文(成行注文)を出すと、意図した値段より安い価格で手放してしまう可能性があります。

例えば現物不動産は、価格が高く不動産会社に仲介してもらうのが一般的です。しかしそう簡単に売り手は見つかりません。また現物不動産は、株式のような証券取引所で売買する仕組みではないため、売り手または仲介業者が買い手を探す必要があります。

買い手を探している間に不動産市況が悪化すれば、思ったとおりの値段では売れない可能性が高いです。このように流動性の低い商品を買う場合は、売りたいときに売れないリスクがあることを想定しておきましょう。

信用リスク

特定銘柄に資産の大半を投資する場合は、信用リスクが高くなります。信用リスクとは、国や企業の財務状況の悪化や不祥事などによって株式や債券の価値が下がってしまうリスクのことです。

例えば東日本大震災で福島第一原子力発電所に甚大な被害が発生した東京電力ホールディングス<9501>の株価は、震災後に大暴落しました。14年近く経つ2025年時点でも、株価は低迷したままです。

【東京電力ホールディングス<9501>の直近30年の値動き】

東京電力ホールディングスの直近30年の値動き
画像引用:SBI証券

ほかにも品質不正などにより業績が傾き、株価暴落後に上場廃止となった日医工のような事例も、決して多くはありませんが存在します。2012年9月に再上場した日本航空(JAL)<9201>も2010年に経営破たんしており、当時株主だった投資家は株式の価値を完全に失う損失を被っています。

大企業でも信用リスクがゼロにはならないため、最低でも投資先企業の直近の決算資料くらいは確認しておきましょう。

カントリーリスク

カントリーリスクとは、政権交代やハイパーインフレなど各国の政治、経済の状況変化などによって発生するリスクです。一般的に中国やインドをはじめとした新興国に投資する場合、カントリーリスクは高くなるといわれています。

国ごとのカントリーリスクは、日本貿易保険が公表しており、日本のような低リスク国は米国やイギリス、ドイツ、オーストラリアなどの先進国に限られます

【カントリーリスクマップ(2024年10月22日現在)】

カントリーリスクマップ(2024年10月22日現在)
画像引用:日本貿易保険

新興国株に投資する場合は、国ごとのカントリーリスクを確認し、あまりにもリスクが高い国への投資は少額にとどめるなど慎重に判断したほうがいいでしょう。

一般的なリスク許容度が必ずしも当てはまるとはいえない

リスクを把握できたあとは、自分のリスク許容度を考え、許容範囲内のリスクにとどめた投資を始めることが必要です。一般的にリスク許容度は、若い世代ほど高く年配の人ほど低いといわれます。

ただしリスクに対する感じ方には個人差があり、必ずしも当てはまるとはいえません。このような一般論的なリスク許容度を真に受けた若い世代を中心に、資産の大半が株や投資信託で構成されたポートフォリオを見かけます。

リスク許容度が高い人であれば問題ありませんが、2024年8月初旬の暴落時に損切りした人は、決して少なくありません。その証拠にネット上では「新NISA損切り民」という言葉が生まれ、ニュースにも取り上げられました。

このような投資家の二の舞いにならないためにも、自分のリスク許容度を把握しておきましょう。

投資のリスクに対する考え方・向き合い方(リスク許容度)

ここでは、自分のリスク許容度を知るために必要な考え方、向き合い方を解説します。

なお2025年1月23日時点の株価が高いタイミングで投資を始める場合を想定しており、どちらかというとリスクを高めに見積もっています。また筆者のリスク許容度が低いことを認識したうえでご覧ください。

資金用途に応じたリスクに対する考え方

子どもがいる人や結婚予定、出産予定のある人は、資金用途に応じてリスク許容度が異なるはずです。例えば教育資金や子育てに必要な資金は、使うタイミングによって異なるものの近い将来に現金化しなければいけません。

今から投資をして現金化する前に株価が暴落すれば、計画は破たんします。場合によっては「投資の失敗で大学へ進学できない」「奨学金を借りなければいけない」など子どもに負担をかけることになりかねません。

このように近い将来必要とわかっているお金は、暴落のリスクを想定して現金比率を少なくとも50%以上にしたほうが安心です。株価が高い状況下においては、無理に投資に回す必要はないでしょう。

一方、老後資金は年齢によって異なりますが現金化するまでの時間があります。米国株は、2000年代に2回の大暴落を経験していますが、5~7年程度で暴落前の高値を回復しています。

【約500社の米国株で構成されたS&P500の値動き(1987年10月~2015年2月)】

約500社の米国株で構成されたS&P500の値動き(1987年10月~2015年2月)
画像引用:TradingView

暴落しても株価回復まで待てる老後資金は、リスク許容度を高めにしてもいいでしょう。

職業に応じたリスクに対する考え方

仕事を失うリスクが低い会社員や公務員と、仕事を失うリスクが高いフリーターや個人事業主などでは、リスク許容度が異なります。万が一株価が暴落すれば景気が悪くなり、フリーターや個人事業主が真っ先に仕事を失うことになるでしょう。

フリーターや個人事業主などが暴落時に資産の大半を株や投資信託にしていると、資産価格の暴落と収入の激減というダブルパンチを受けることになります。

フリーターや個人事業主は、暴落が起きても手持ちの現金でしのげるように、現金比率を50%以上に保っておいたほうがいいでしょう。一方、会社員や公務員は景気悪化でボーナスが減る可能性はありますが、給料が激減するリスクは低いです。

リストラの対象になってしまう可能性はありますが、失業保険などのセーフティーネットがあります。3~6ヵ月分の生活費を現金で確保できれば、残りは投資に回してもいいでしょう。

投資のリスクを抑えたい場合に利用したい制度

投資のリスクを抑えたい場合は、少額から投資できるNISAやiDeCoを利用しましょう。

NISA(つみたて投資枠)

NISAとは、株や投資信託などに投資ができ、得られた利益や配当に対する20.315%(復興特別所得税を含む)の税金が非課税になる制度です。投資信託の積立投資に利用できる「つみたて投資枠」、株や投資信託などへの一括投資にも対応した「成長投資枠」の2つに分かれています。

2024年1月からは、制度内容が一新され、生涯非課税で保有できるようになりました。

【NISAの概要】

NISAの概要
※上場廃止のおそれがある日本株、レバナスなど金融庁が長期投資に向かないと判断した投資信託は除外
画像引用:金融庁

つみたて投資枠は、毎月一定額を自分で選んだ投資信託で積み立てる仕組みのため、積立投資初期の暴落リスクを抑えられます。NISAを始める場合は、投資信託や日本株、米国株の取引手数料が無料(または実質無料)になる大手ネット証券がおすすめです。

おすすめのネット証券について詳しくはこちら
新NISAにおすすめのネット証券5選!特徴や注意点と口コミ・評判を紹介

iDeCo

iDeCoは、国民年金や厚生年金とは別に給付を受けられる私的年金制度の一つです。年間6万円(月5,000円)以上の掛金を拠出し、自分で商品を選んで運用します。2024年12月からは、事業主証明書なしで加入できるようになり、勤務先に知られることなくiDeCoを始められるようになりました。

iDeCoは、NISAと同様に運用益が非課税になるだけでなく年間の掛金は全額所得控除の対象になり、所得税や住民税が軽減されます。一方、原則60歳まで出金できないなどのデメリットもあるため、制度の内容を理解したうえで始めましょう。

iDeCoのデメリットについて詳しくはこちら
iDeCoは本当にやらないほうがいい?職業別のデメリットを解説

目先のリターンだけでなくリスクも認識したうえで投資を始めよう

投資には、必ずリスク(リターンの振れ幅)があります。新NISAや株高により投資に対する興味、関心が高まる一方で、リスク許容度を超えた投資をして暴落時に損切りさせられる個人投資家が増えています。

2025年も1月早々にNISAの損切り民が発生しているため、これから投資を始める人は自分のリスク許容度を把握し、許容できる範囲にとどめましょう。リスク許容度が低い人は、リスクの低い資産運用も検討してみましょう。

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