貯金と投資の適切な割合をどのように決めるべきか、悩んでいる人は多いのではないでしょうか。
貯金は、生活の安定や緊急時の備えとして重要ですが低金利やインフレの影響で資産の価値が目減りするリスクがあります。一方、投資は資産を増やす手段として有効ですが、元本割れのリスクも伴うため、適切なバランスを見極めることが大切です。
日本では、家計金融資産の50.9%が現金・預金に偏っており、投資割合が低い傾向があります。一方、米国では株式や投資信託の割合が50%を超え、積極的な資産運用が一般的です。
本記事では、日本と世界の投資割合を比較し、NISAやiDeCoを活用した資産形成の次のステップについて解説します。貯金と投資のバランスを見直し、より効果的な資産運用を考えていきましょう。
日本と世界の投資割合の比較
資産形成を考えるうえで、日本と世界の投資割合の違いを知ることは重要です。
日本では、家計金融資産の半分以上が現金・預金に偏っていますが、米国や欧州では投資の割合が高く長期的な資産運用が一般的となっています。
ここでは、日本・米国・欧州の家計資産の構成を比較し、その特徴を解説します。
日本の家計金融資産の内訳
資産区分 | 割合 |
預金・貯金 | 50.9% |
株式等・投資信託 | 19.6% |
保険・年金 | 24.6% |
その他 | 4.9% |
※2024年3月末時点
日本は、現金・預金の割合が50%以上を占めており、リスクを避ける傾向が強いことがわかります。これは「元本保証を重視する安全志向」が根強く、株式や投資信託といったリスク資産への投資が抑えられているためです。
また保険・年金の比率も約25%と高く、金融資産の多くが保険商品に預けられていることも特徴といえます。貯蓄型保険や終身保険の利用が一般的なことが影響しているといえるでしょう。
しかしこれらの保険は、低金利の影響を受けやすく長期的な資産成長には向かない場合もあります。
米国の家計金融資産の内訳
資産区分 | 割合 |
預金・貯金 | 11.7% |
株式等・投資信託 | 53.3% |
保険・年金 | 27.7% |
その他 | 7.3% |
※2024年3月末時点
米国では、現金・預金の割合がわずか約12%にとどまり、金融資産の大半が株式や投資信託などのリスク資産に投じられています。これは、米国では「投資による資産運用が当たり前」という文化が浸透しているためです。
また米国には、401(k)やIRA(個人退職勘定)といった年金制度が整備されており、積極的に株式市場を活用する仕組みができています。そのため老後資金も市場を通じて増やす意識が高く長期投資が前提となっているのが特徴です。
日本では「株式投資はリスクが高い」という考えが根強いですが、米国では「リスクをとらないほうがインフレで資産が減る」という認識が一般的となっています。
こうした意識の違いが資産配分の大きな差につながっているのです。
欧州の家計金融資産の内訳
資産区分 | 割合 |
預金・貯金 | 34.1% |
株式等・投資信託 | 32.1% |
保険・年金 | 28.7% |
その他 | 5.1% |
※2024年3月時点
欧州では、金融資産の配分が「貯金・投資・保険」でおおむね均等に分けられています。現金・預金の割合は、約34%と日本よりは低いものの米国よりは高い水準です。
この背景には、欧州の多くの国で公的年金制度が充実しており「老後のために投資する必要性が米国ほど強くないこと」が挙げられます。また金融リテラシーの向上により、株式・投資信託といったリスク資産と預金・年金のバランスをとる考え方が広まっていることも大きな要因です。
日本と世界の投資割合の違いから学ぶこと
日本と海外の投資割合の違いを見ると日本では、現金・預金の割合が高く、資産が増えていかない状態であることがわかります。以下のようなポイントが日本の家計資産の特徴として挙げられます。
・日本人は「投資=リスク」と考え、元本保証を重視する傾向が強い
・米国では「投資をしないほうがリスク」と考え、積極的に資産運用を行う傾向
・欧州は「バランス重視」の考え方が浸透し、貯金・投資・保険をおおむね均等に配分する傾向
日本の金融資産構成は、低金利環境で不利になりやすくインフレが進めば現金・預金の実質的な価値が減るリスクもあります。そのため長期的な視点で貯金と投資のバランスを見直すことが重要です。
では、実際にどのように貯金と投資の割合を決めるべきなのでしょうか?次の章では、年代別の資産構成と投資割合について解説します。
年代別の資産構成と投資割合
貯金と投資のバランスは、ライフステージや収入の増減によって変化します。特に日本では、年齢が上がるにつれて金融資産の総額は増えていく傾向です。しかしその多くが貯金に偏り、投資の割合が控えめなままとなっています。
ここでは、年代ごとの平均的な金融資産残高と貯金・投資の割合をデータで確認しながら、適切な資産形成のあり方について解説します。
日本の年代別金融資産額と構成
年代 | 預貯金 | 株式 | 投資信託 | 債券 | 財形貯蓄 | 生保・損保 | 個人年金 |
20代 | 91.7% | 19.0% | 24.7% | 4.4% | 6.4% | 13.9% | 10.7% |
30代 | 95.3% | 27.6% | 29.5% | 4.9% | 9.3% | 26.0% | 19.9% |
40代 | 94.2% | 28.4% | 28.9% | 4.1% | 9.7% | 31.0% | 20.8% |
50代 | 96.4% | 28.6% | 24.9% | 6.2% | 12.2% | 31.9% | 25.7% |
60代 | 97.5% | 33.7% | 27.0% | 9.6% | 5.1% | 32.7% | 27.7% |
70代 | 98.0% | 37.3% | 26.1% | 10.2% | 2.1% | 35.6% | 16.2% |
合計 | 95.9% | 30.3% | 26.9% | 7.0% | 7.3% | 30.2% | 21.0% |
年代 | 平均金融資産額 | 金融資産額の中央値 |
20代 | 266万円 | 120万円 |
30代 | 874万円 | 315万円 |
40代 | 1,181万円 | 500万円 |
50代 | 1,773万円 | 700万円 |
60代 | 2,499万円 | 1,200万円 |
70代 | 2,162万円 | 1,100万円 |
20代:資産形成のスタート期
20代の平均金融資産額は約266万円と、まだ資産形成の途上にあります。この世代では、投資の割合が他の年代と比較して低いのが特徴です。
これは、社会人になりたてで収入が安定してなく、生活防衛資金の確保が優先されるためです。特に就職・転職のタイミングでは、引っ越し費用や新生活の準備資金が必要になるため、ある程度の貯金を確保することは妥当でしょう。
しかし貯金だけでは、資産が増えにくいため、少額からでもNISAやiDeCoを活用した長期投資を始めるのが理想的です。20代から積立投資を始めれば長期の複利効果を最大限に活かすことができます。
30代:収入が増え、投資を本格化する時期
30代の平均金融資産額は、約874万円で預貯金以外の投資割合が増えているのが特徴です。この世代は「結婚」「住宅購入」「子育て」といったライフイベントが重なる人もいるため、支出が大きくなる傾向があります。
そのため生活防衛資金として少なくとも6ヵ月分の生活費を貯金で確保しつつ、残りを投資に回すのが望ましいでしょう。NISAのつみたて投資枠やiDeCoに加え、個別株やETF、不動産投資も選択肢に入れて資産運用を本格化する時期です。
40代:資産形成の安定期、投資比率を高める
40代の平均金融資産額は、約1,181万円でした。この年代は、一般的に仕事の経験値が増して収入が安定してくる時期です。
しかし一方で住宅ローンや子どもの教育資金など大きな支出が発生することも多く、資産運用の戦略を慎重に考える必要があります。投資割合を高めるにあたり、株式・ETFに加えて、債券やREIT(不動産投資信託)などの安定資産もポートフォリオに組み込むのが有効です。
50代:リスク管理を強化しながら資産を増やす
50代の平均金融資産額は、約1,773万円でした。この世代は、定年間近のため資産を守ることも重要な課題の一つです。
投資のリスクを抑えながら安定した収益を得るためには、債券や高配当株、インカムゲイン(配当・分配金)が得られる資産へのシフトを検討するとよいでしょう。
60代以上:資産を守りながら取り崩しを考える
60代以上の平均金融資産額は、2,000万円以上となりピークを迎えます。定年後の生活を考えながら資産を管理するフェーズです。
この世代では、無理にリスクをとるのではなく資産を守りながら計画的に取り崩していく戦略が重要になります。具体的には、以下のような運用方法を検討しましょう
・高配当株や債券を活用し、安定した収入を確保する
・必要に応じて資産の一部を売却し、生活費に充てる
・相続や税金対策も考慮しながら、資産を分散管理する
年代別の投資割合から見る資産形成のポイント
このように日本では、年齢が上がるにつれて投資の割合は少しずつ増えるものの、全体的に貯金への依存度が高い傾向が続いています。投資割合を適切に増やすためには、以下のポイントを意識することが大切です。
・若い世代ほど少額でも早く投資を始める(時間を味方につける)
・40代以降は、安定資産を取り入れながらリスク分散を図る
・50代以降は、収益性だけでなく「資産の取り崩し計画」も考慮する
年代に応じた貯金と投資の適切な割合を見極めることで長期的に安定した資産形成が期待できるでしょう。次の章では「具体的にどのような投資手段を選ぶべきか?」について詳しく解説します。
投資の種類と特徴
貯金と投資のバランスを考える際は、投資先の選択肢を理解することが重要です。投資には、さまざまな種類があり、それぞれにリスクやリターン、資産形成の目的に応じた特性があります。ここでは、代表的な投資手法について詳しく解説します。
株式投資・投資信託・ETF
株式投資は、企業の成長に応じたリターンを狙う投資手法です。企業が成長し利益を拡大すれば、株価も上昇し、キャピタルゲイン(売却益)が得られます。
また一部の企業は、配当金を出しており長期的に保有することでインカムゲイン(定期収益)を得ることも可能です。
一方、株式は世界情勢や市場の影響を受けやすく短期間で価格が大きく変動するリスクがあります。そのため長期投資を基本とし、銘柄選びや分散投資を意識することが重要です。
投資信託は、複数の投資家から資金を集め専門家が運用する金融商品です。少額から分散投資ができるため、特に初心者にはリスクを抑えながら投資を始められるメリットがあります。
ETF(上場投資信託)は、投資信託の一種ですが株式市場でリアルタイムに売買できるため、流動性が高く手数料も比較的低めです。S&P500や全世界株式を対象としたETFは、長期の資産形成に適した選択肢となります。
・長期的な資産成長が期待できる
・少額から分散投資が可能(特に投資信託・ETF)
・配当金などのインカムゲインを得られる
・市場の影響を受けやすく、価格変動リスクがある
債券投資(国債・社債)
債券投資は、国や企業が発行する債券を購入し定期的な利息(クーポン)を受け取る投資手法です。基本的に満期まで保有すれば、元本が返還されるため、比較的リスクが低い投資とされています。
特に国債(日本国債・米国債など)は信用度が高く安全資産とみなされる傾向です。一方、社債は企業が発行するため、企業の財務状況によってはデフォルト(債務不履行)リスクも伴います。
・安定した利息収入が期待できる
・国債は信用度が高く安全資産とされる
・株式投資と比べるとリターンが低い
・インフレが進むと実質的な利回りが目減りする
不動産投資(現物・REIT)
不動産投資は、住宅や商業施設などの物件を購入し賃貸収入を得る投資手法です。安定したキャッシュフローが期待できるため、特に資産を守りながら運用したい人に向いています。
しかし物件(現物)を購入する場合、「多額の資金が必要」「流動性が低い(すぐに売却できない)」という点はデメリットです。そのため初期投資額が大きい点を考慮する必要があります。
一方、REIT(不動産投資信託)は少額から不動産投資ができる手段として注目されています。J-REITや海外REITを活用することで複数の不動産に分散投資できるため、リスクを抑えつつ不動産のメリットを享受できます。
・安定した家賃収入を得られる(現物不動産)
・インフレに強く資産の保全に適している
・REITを活用すれば、少額で不動産投資が可能
・物件購入にはまとまった資金が必要(ローンを組む場合も多い)
・賃貸経営には管理の手間やリスクが伴う
暗号資産(仮想通貨)・FX(外国為替証拠金取引)
暗号資産(仮想通貨)は、ビットコインやイーサリアムなどのデジタル通貨に投資する手法です。ビットコインは、2025年1月20日に約1,700万円の最高値を記録しましたが、2025年3月現在は約1,100万円まで下落しており、その価格変動の大きさが際立っています。
暗号資産の魅力は、高いリターンを狙える点です。しかしトランプ政権の新たな関税政策による市場のリスク回避、暗号資産取引所のハッキング事件、米国における法案否決などの影響で価格が大きく変動するリスクもあります。
また各国の規制強化によって市場環境が急変する可能性もあり、慎重な判断が求められる投資といえるでしょう。
FX(外国為替証拠金取引)は、異なる通貨を売買し為替差益を狙う投資手法です。レバレッジを利用することで少額でも大きな取引が可能ですが、その分リスクも大きくなります。
円安・円高の影響を受けやすく短期売買が中心となるため、相場の分析や取引のタイミングが重要です。
・暗号資産は急成長する市場で大きなリターンが狙える
・FXは通貨分散の手段として活用できる
・暗号資産は価格変動が激しく規制リスクも高い
・FXはレバレッジによるリスクが大きく、短期取引が中心
投資先を選ぶ際のポイント
投資先によって特徴が異なるため、自身のリスク許容度や投資目的に応じて選択することが重要です。
・長期的な資産形成を狙うなら → 株式・ETF・投資信託
・安定した収益を得たいなら → 債券・高配当株・不動産投資
・少額から分散投資をしたいなら → REIT・投資信託・ETF
・短期的な投機を考えるなら → FX・暗号資産
特にNISAやiDeCoを活用しながら、安全資産とリスク資産のバランスを調整することが効果的な資産形成のポイントです。次の章では、NISA・iDeCoを活用したあとの投資戦略について解説します。
NISAとiDeCoの位置づけ:投資の基礎としての役割
NISAとiDeCoは、資産運用を考えるうえで欠かせない制度です。特にNISAは、2024年の制度改正によって非課税枠が拡大され、多くの投資家にとって活用しやすい仕組みとなりました。
一方、iDeCoは老後資金を効率的に運用する手段として、税制優遇のメリットが大きいことが特徴です。これらを活用しながら、次の投資戦略を考えることが、効果的な資産形成につながります。
NISA・iDeCoを活用している人が増えている
2024年の新NISA導入により、投資を始める人が急増しました。これまで「投資はリスクが高い」と考えていた人も非課税制度を活用することで積極的に資産運用に取り組むようになっています。
またiDeCoも長期の資産形成に適した制度で、掛金の所得控除や運用益の非課税措置など税制メリットが大きい点が特徴です。特に「原則60歳まで引き出せない」という制約があるため、老後資金の確保に向けた安定した資産運用に向いています。
NISAだけで十分なのか?
NISAは、優れた制度ですが、年間の投資枠(つみたて投資枠120万円+成長投資枠240万円=最大360万円)には限りがあります。資産形成を本格的に考える場合、NISAだけでは投資枠が不足する可能性があり追加の資産運用を検討することが必要です。
・NISAの投資枠(年間360万円)を使い切ったあとの追加投資はどうする?
・NISA対象外の資産(債券・不動産・暗号資産など)にも投資すべきか?
・NISA以外の税制メリットを考慮した資産運用はあるか?
NISAの枠を活用しつつ、特定口座での追加投資や債券・不動産・コモディティ(貴金属など)への分散投資を検討することで、より安定した資産形成が期待できるでしょう。
特に資産の安全性を重視する場合は、株式や投資信託だけでなくリスク分散を意識した資産配分が重要です。
次の章では「NISAを活用したあとにどのように投資枠を広げるか」について具体的な選択肢を解説します。
NISAを活用しながら投資枠をどう広げるか?
NISAの年間非課税投資枠(成長投資枠240万円+つみたて投資枠120万円)を最大限活用したあとは、追加の投資先を検討することが必要です。以下の選択肢が考えられます。
・NISA枠を超えた分は特定口座(課税口座)で投資を継続
・米国ETFや高配当株、成長株を追加購入
・債券(国債・社債・債券ETF)を組み込んでリスク低減
・J-REIT・海外REITで不動産投資の分散効果を得る
・金・コモディティ(インフレヘッジとして)
・プライベートエクイティ・ヘッジファンド(高リターンを狙う場合)
・暗号資産(ポートフォリオの一部としてリスク管理しながら)
経済環境を考慮した資産配分の調整
投資割合を増やす際には、市場環境や経済状況を考慮することも重要です。
・円安時は外貨建て資産(米国ETF・米国債券)の価値が上昇しやすい
・円高時は海外資産を安く買うチャンス
・金利上昇局面では債券価格が下がるため、債券投資のタイミングを慎重に
・金利が低下すると債券価格は上昇するが、リスク資産(株式)も好調になりやすい
・インフレが進む場合は株式・不動産・コモディティ投資が有利
・インフレ抑制時には債券や高配当株の魅力が増す
NISAを活用したあとの資産運用戦略
NISAを使い切ったあとに投資をどう広げるかが資産形成の成功を左右します。
・NISA枠を超えた投資は、特定口座で追加投資を検討する
・債券・不動産・オルタナティブ資産を取り入れ、分散投資を意識する
・経済環境を考慮し、為替や金利の変動にも対応する
資産形成においては、長期・分散・積立を基本にライフステージや市場環境に応じた投資戦略を調整することが大切です。
貯金と投資の適切なバランスは、ライフステージや資産形成の目的によって異なります。日本では、預貯金の割合が高い傾向ですが、長期的な資産形成を考える場合はNISAやiDeCoを活用しながら投資割合を適切に増やすことが重要です。
年代別に見ると20~30代では成長資産に重点を置き、40代以降はリスク管理を意識した運用へシフトするのが理想的でしょう。
またNISA枠を使い切ったあとは、特定口座での投資や債券・不動産・オルタナティブ資産などを活用すれば、より安定した資産運用が期待できます。
市場環境や経済状況に応じて資産配分を見直しながら、長期・分散・積立を基本にした運用を心がけることが将来の資産形成において鍵となるでしょう。